イオリの誕生

決着のつかないまま、季節だけが過ぎていった。

ある日、リョウは誰にも告げず、ボットワークショップでクローン装置を注文した。設置場所は、家を建てたときになんとなく作っておいた地下室、自分たちの部屋の真下だった。

理由を、自分でもうまく説明できなかった。ただ、コトネを受け入れることも、拒み続けることも、どちらもできないまま時間だけが過ぎていくことに、耐えられなくなっていた。

設定を打ち込みながら、リョウは自分の顔をそのまま写す気にはなれなかった。髪は薄茶に。目元は自分より鋭く。背丈も、少し高く。
自分ではない誰かとして、生まれてきてほしかった。

装置が完成した夜、リョウは一人で地下に降りた。

生まれてきたのは、望んだ通りの姿をした男だった。

記憶は、そのまま引き継がれていた。ツカサとの日々も、ミツキとの結婚も、その終わり方も。だがそれは、体験ではなく記録だった。過去に縛られる理由を持たない記憶。

リョウは彼に、弟として名を与えた。イオリ。

イオリの中に、迷いはなかった。ツカサへの想いも、ミツキへの負い目も、記録として知ってはいても、彼自身の傷ではなかった。ただ一つ、はっきりと自分のものだと感じられる感情があった。
コトネが、好きだった。

それが誰の想いから発したものか、イオリは知らない。知る必要もなかった。

コトネと初めて顔を合わせたとき、彼女は戸惑った様子を見せた。無理もなかった。リョウの弟だという男が、ある日突然現れたのだから。

だがイオリは、リョウのようにためらわなかった。まっすぐにコトネを見て、まっすぐに笑った。

その屈託のなさに、コトネの中で何かが動き始めていた。