友達とライブに行った帰り、電車が遅くなって、街に帰ると真っ暗だった。地下街も商店街も閉まっていて、しんとしている。
そこからさらに歩いて別の電車に乗り換えなければならないので、友達と3人で街灯だけがぽつんぽつんと点る道を歩く。
人通りもない。車も通らない。やがて分かれ道に出る。次の電車に乗るためには右の道に行かなければならないが、そちらは真の闇。街灯もなく、自分の腕すら見えないほど真っ暗だ。
さすがに怖いのでその道を通るのはあきらめ、遠回りをする。
やがて、川沿いにしつらえた女郎屋にたどり着く。時刻は午前2時をすぎている。女郎屋では宴もたけなわ、飲めや歌えの大騒ぎ。真っ赤な襦袢の女が二人、緋毛氈の上で男に媚を売っている。
明るく、人が居るところに出られたのでほっとして、そこで休むことにする。
すると、戸口を激しく叩く音がする。ガラスのはまった木製の引き戸を誰かが何度も叩き、ゆすぶっているのだ。
余りの激しさに泥棒か強盗か、と身のすくむ思いがする。
そして、いつまで経っても止まないその音に、もしかしてこれは現実の音ではないのかと思いはじめる。
ついに何者かが侵入して来た気配がした。
その瞬間全身が総毛立ち、私は目が覚めた。
ベッドの脇に何者かが立っている。こちらが目覚めていることには気づいていないらしい。ぼんやりと見えるそれは人型で、白いもので頭から全身が覆われ、顔に当たる部分だけが黒い。宇宙服を着込んでいる様にも見えるがだぶついた風ではなく、むしろ服は体にぴったりしているようだ。
少しでも身じろぎすれば何かしらの被害を受けるに違いない。そう思い、ひたすら寝た振りをする。
その人物はこちらが眠っている事を確認したらしく、洗面所の方へと消えて行った。
それきり、コトリとも音がしない。
私は恐る恐るベッドから起き、セキュリティシステムの非常ボタンの場所を確認する。
窓を確認するとどこもガラスは割られておらず、クレセント錠も下りている。何度も眺め、触ってみたけれど異常はない。
それからそっと洗面所をのぞき、震える手でトイレのドアもそっと開け、クロゼットの中も確認する。
誰もいない。
思い切って明かりをつけた。普段は点けない寝室の明かりもつけた。
時計を見ると午前4時過ぎ。
もう一度洗面、トイレ、窓、クロゼットを確認する。どこもいつもどおり、変わりなし。
TVを付けると朝青龍の相撲が映っていた。
……マジ怖かったんすよ。