探せば家の中にその小説はあるんだけど、誰のどれかわからんので探さない。
とある世界では情報が溢れかえり、人は家で好みの情報だけを選りだして過ごしている。
そのため、いつの間にか皆が誰ともコミュニケーションを取れなくなっていた。
たまに隣人と道で会うことがあっても、共通の話題が何一つない。自分が関心を持っていることを口にしても、相手はサッパリ理解してくれない。
人はたくさんいるのに、みな孤独だった。
そんなコミュニケーション不全の世界で、ある日一つの情報が流れる。
皆はその情報に導かれ、約束の日に外に出る。
空のどこからか、かけ声がかかる。
そして皆は一斉に手を叩く。
タタタン・タタタン・タタタン・タン
これが何を意味しているのかは誰にも判らず、たったそれだけのことだったが、隣人に道で会った時奇跡は起こる。
「この間のアレすごかったですね」「そうですね!」
なんと話が通じたのだった。
今はネットが世界を席巻し、情報が溢れ、人々はそこから好みの情報のみを引き出している。
そうして小さなコミュニティをもち、その中で好みの話題だけを判るもの同士で語って楽しんでいる。
テレビは共通の話題となる情報を今も垂れ流しているけれど、そのテレビさえ視聴の選択肢が増え、同じ時間に同じ番組を見ている人がばらけつつある。
あの小説の世界は今近づきつつあるんだなぁ、とふと思った。